
性感染症に感染すると、自覚症状として性器の違和感、特にかゆみやおりものの変化を伴うのが一般的です。ボロボロとした白いおりものが増えるときは、カンジダ膣炎、黄色や黄緑色で泡が混じったおりものがみられるときは、トリコモナス膣炎が疑われます。
カンジダ膣炎は、カンジダ・アルビカンスという真菌(カビ)に感染して起きるものです。カンジダ菌は健康な女性にも常在菌として存在しているため、セックスを通じてパートナーから感染するほかにも、風邪などで体力や抵抗力が落ちた時に発症、再発することが多い(自己感染)のが特徴です。
トリコモナス膣炎は、トリコモナス原虫の感染によって起こるもので、感染ルートのほとんどはセックスです。稀に公衆浴場やトイレの便座を介して感染することもあるため、セックスの経験がない小さな女子でも感染する可能性はあります。
トリコモナス膣炎を発症すると、膣のかゆみだけでなく、排尿痛や性交痛、外陰部のただれを伴うこともあります。性感染症全体が症状が現れにくくなっているため、トリコモナス膣炎になっても初期には自覚症状がない女性も20~50%ほどいるとされていますが、その1/3は半年以内に症状が現れるとしています。
トリコモナス膣炎を放置していると、原虫が膣内にとどまらず尿道や膀胱、子宮頸管などにも寄生するようになります。トリコモナス膣炎になると、膣内のpH(酸性度)が損なわれて自浄作用が低下するため、クラミジアや淋病などの性感染症のリスクも高まり、一般細菌(大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌)なども繁殖しやすくなります。
クラミジアは性感染症に馴染みのない一般の方でも認知度が高く、実際に国内では患者数が最も多い性感染症とされています(推定で100万人以上)。性感染症の自覚症状が全くない高校生を対象に調査を行ったところ、10%程度にクラミジアの陽性反応が見られたというデータもあり、若い世代での感染が深刻な問題となっています。
女性がクラミジアに感染した場合、排尿時の違和感や軽い痛み、おりものが黄色っぽくなる程度しか自覚症状がない、あるいは全く自覚症状がないことが多いので、感染に気がつかない人が非常に多くなっています。さらにクラミジアは潜伏期間が1~3週間と長いため、知らない間にセックスを通じて感染を広げてしまうのです。
自覚症状に乏しいということは、婦人科での診察が遅れて卵管などにも感染が拡大する可能性があり、子宮外妊娠や不妊症の原因になることもあります。妊婦さんがクラミジアに感染すると、分娩時の産道感染で生まれてくる赤ちゃんが思い結膜炎や肺炎を発症する恐れがあります。
男性がクラミジアに感染している場合、オーラルセックスで女性の喉に病気を移してしまう事例が増えており、クラミジアの感染者数が増加している大きな原因となっています。
イボの一種である尖圭コンジローマは、低リスク型のHPV(ヒトパピローマウイルス)6型・11型に感染が原因で外陰部から肛門にかけて米粒大から指くらいのサイズの先端の尖ったイボがたくさんでき、密集するとカリフラワーのような形状になります。灼熱間やかゆみを伴う症状が出ることもあります。
米粒サイズの赤い水ぶくれが、性器周辺に並んでできて、痛い、むず痒いという自覚症状があれば、性器ヘルペスの疑いがあります。水ぶくれが破れて潰瘍(ただれ)ができると、排尿時にオシッコがしみて、強い痛みを感じたり、歩行時などに下着がこすれるだけで痛みを感じたりします。さらに酷い症例では、小陰唇全体が腫れて痛みをともない、歩行が困難になることもあります。
これらの不快な症状は、坑ヘルペスウイルス剤(ゾビラックス、バルトレックス)を投与したり、炎症を鎮める作用のある軟膏による治療で治まりますが、ヘルペスウイルス自体を駆除することはできません。というのもウイルスは一度感染すると神経細胞に潜伏してしまうからです。そして、生理や風邪、疲労などで体の抵抗力が低下すると何度も再発するのです。
ヘルペスウイルスは、性器同士の接触のほかにも、オーラルセックスを通じて喉、唇、目などに感染する例もあるので、性器周辺以外の異常が見られた場合でもすぐに病院を受診しましょう。
これらの性感染症が他の病気に比べて厄介なのは、パートナーも一緒に治療する必要があるということです。本人だけが抗生物質等による治療が功を奏したとしても、パートナーが治療を受けなかったり、不特定多数のパートナーとセックスを行っていると、双方が何度も感染する「ピンポン感染」を起こしてしまうからです。